車歴データベース(仮)のデータ設計

製作中の車歴データベース(仮)では、鉄軌道事業者の創業以来の車歴表をデータベース化することを目論んでいる。その際には、歴史的な複雑さをどのようにデータベースに落とし込むかが課題となる。本稿では試作、検討中のデータ設計について述べる。

主要テーブル

グループ

単純に考えれば、最上層は鉄軌道事業者であり、鉄軌道事業者>系列>形式>車両、という階層でデータベースのテーブルを作ればよい。しかし、事業者の合併・分割によって、容易にデータが複数に分かれてしまうという問題があるため、池上電気鉄道など被合併事業者は合併事業者にまとめる。また、独立性の高い路線、例えば京王井の頭線(帝都電鉄)や東急世田谷線(玉川電気鉄道)については、独立したグループとする。このように鉄軌道事業者による分類を基本としつつも、柔軟に対応したグループ分けを採用して、系列以下のデータの分割を少しでも減らす。

グループ名は「京浜急行電鉄(1899-)」というように現在の名前を基準としながら、開業年を付すことでこの場合は大師電気鉄道以来の流れであることを示唆する。現存しないグループでは「旧相模鉄道茅ヶ崎―橋本(1917-1944)」というように終わった年を付して、現存しないことと、いつの時代には存在したのかを明確にする。

以下、グループ>系列>形式>車両という階層構造となり、下層のデータは必ず一つの上層に属する。逆に言えば複数の上層に属する系列、形式、車両は複数のデータに分割する。

系列

一般的な系列の概念に基づく。系列名についても基本的には「東急8500系」というような一般的に普及している名前とする。ただし、旅客電車で固定編成による系列が概念が登場する以前のものや、旅客電車以外については「東急・京王井の頭線吊り掛け車」、「小田急付随貨車」というような車種や特徴に基づく分類によって系列に代える。また「東急5000系(2)」などと系列名の重複に対しては世代を付して、一意性を保つ。

系列名に冠する鉄軌道事業者の略称は後で詳述するが、基本的には系列登場時のものを採用しつつも、煩雑にならない範囲で「京浜・京急電動貨車」というように中黒で併記する(この例では京浜と京急の間の東急は省略しているが、このような省略が発生するため記号は中黒とする)。

形式

系列と同様に、一般的な形式の概念に基づく。形式名についても基本的には「東急デハ8600形」というような一般的に普及している形式名として、なおかつ系列名のように必要に応じて世代を付す。ただし、形式の概念のない軌道では、「玉川狭軌電動客車」というような車種や特徴に基づく分類によって形式に代える。

形式名に冠する鉄軌道事業者の略称は、基本的には「東急→京王デハ1710形」というように形式が存在していた期間のものを矢印によってすべて示す。ただし、帝都電鉄の小田原急行鉄道→小田急電鉄併合時など期間が短い場合には省略する。

車両

一般的な車両の概念に基づくが、車両名は単に「デハ8601」などと記号と番号だけを示し、鉄軌道事業者の略称を冠さない。それによって一意にはならないが、ひとまずは許容する。なぜなら、一両ごとに異なる存在期間に応じて、鉄軌道事業者の略称を冠するのは煩雑である反面、単独で車両名を使うことは少なく、系列名、形式名などの文脈によって車両名が一意でなくても十分区別はつくためである。

しかし、データベース上は簡単な方法で一意にならないと不便であるため、一意性が保証されている系列名、形式名、または後述する名前空間との組み合わせによって一意とする。そのため系列名、形式または名前空間と組み合わせてもなお車両名が一意とならない場合には、車両名に世代を付す。

さらに、私鉄の旅客電車は番号だけで区別できることが多いため、そのような系列では車両名は番号だけとし、記号が異なっていても番号の重複があれば世代を付す。

補助概念

鉄軌道事業者の略称

必ずしも鉄軌道事業者によらないグループ分けを採用することにより、玉川電気鉄道が東京横浜電鉄に合併されても、東京横浜電鉄で系列、形式および車両の新データを起こすことはしない。しかし、例えば玉川電気鉄道の東京横浜電鉄合併後に生まれた電動客車71号形(のちのデハ60形)はあくまで東京横浜電鉄のものである。玉川電気鉄道が消滅しているにも関わらず「玉川電動客車71号形」という名前にすることはできない。そのため、鉄軌道事業者の略称を冠する系列および形式では鉄軌道事業者のあり方から必ずしも自由ではなく、そのときどきの鉄軌道事業者の略称を用いる。

また「京急」、「相鉄」といった鉄軌道事業者の略称は定着しているが、歴史的にどこまで適応できるかは必ずしも定まっていない。しかし、系列名、形式名であれば数が限られるため、重複のチェックが容易であり、さらに重複が少ないという実態もあることから、京王電気軌道など大正期にまでさかのぼって、本データベースではなるべく現在の略称を用いる。ただし、現在は相模線となった(旧)相模鉄道は、現在の「相鉄」とは別物のため、相模線に属した車両は「相鉄」ではなく「相模鉄道」とする。

車両の名前空間

前述のように車両名を一意とするのは難しいが、一意である系列名または形式名と組み合わせれば一意とはなる。しかし、系列名や形式名は数が多く、車両に対して適切なものを選び出すのが簡単ではない。そこで、東急であれば①1942年の大改番時②5000系(1)以降(京浜線・湘南線5000番台との衝突対策)③5000系(2)以降——で名前空間を分け、それぞれ「東急[1]」、「東急[2]」、「東急[3]」とする。この名前空間は形式単位で設定するもので、合併後に元の形式名および車両名で増備された車両については、合併前の名前空間を用いる。

また、軌道の車両など記号がなく車種が異なれば同じ番号になる場合には、「玉川[1-mp]」(mp=電動客車)、「玉川[1-tf]」(tf=付随貨車)というようにアルファベットで枝記号を付す。

鉄軌道事業者の変遷図

以下に「鉄軌道事業者の略称」節で述べた、正式な事業者名(商号)と略称の対応関係、および合併・分割・商号変更の変遷図を示す。ピンク色またはオレンジ色は独立したグループとして扱う路線。

京王関係各社の変遷図

オレンジ色1:武蔵中央電気鉄道㈱→京王電気軌道㈱[八王子線→高尾線]

オレンジ色2:帝都電鉄㈱→小田原急行鉄道㈱[帝都線]→小田急電鉄㈱①[帝都線]→東京急行電鉄㈱[井ノ頭線]→京王帝都電鉄㈱[同左]→京王電鉄㈱[同左] ※井ノ頭線がいつ井の頭線になったのかは不明

小田急関係各社の変遷図

オレンジ色:帝都電鉄㈱→小田原急行鉄道㈱[帝都線]→小田急電鉄㈱①[帝都線]→東京急行電鉄㈱[井ノ頭線]→京王帝都電鉄㈱[同左]→京王電鉄㈱[同左] ※井ノ頭線がいつ井の頭線になったのかは不明

東急関係各社の変遷図

オレンジ色:玉川電気鉄道㈱→東京横浜電鉄㈱①[玉川線]→東京横浜電鉄㈱②[同左]→東京急行電鉄㈱[玉川線→世田谷線]→東急㈱[同左]→東急電鉄㈱[同左]

京急関係各社の変遷図

相鉄関係各社の変遷図

オレンジ色:相模鉄道㈱①[相模線]→運輸通信省[相模線] ※神中鉄道㈱と相模鉄道㈱①が合併後は、神中線は「相鉄」、相模線は「相模鉄道」とする

その他考慮事項

東京横浜電鉄が京浜電気鉄道、小田急電鉄を合併し、東京急行電鉄へ商号変更したのは1942年5月1日であるが、それにともなう大改番は10月15日の届出で行われている。このように合併と改番の手続きは同時ではない場合が多く、厳密には合併後も旧番号のままであった期間があるとも言える。しかし、それを考慮して重複を排除すると、あまりに煩雑であるわりに、その期間は短いことが多い。そのため本データベースでは無視する。

また法規上は鉄道と軌道は厳密に区分され、車両も鉄道籍と軌道籍に分かれる。これは重要なことではあるが、本データベースではまずデータベースへの落とし込みが課題であり、最低限の整理で手一杯であることから、鉄道籍と軌道籍は区別しない。

まとめ

本データベースの工夫のポイントをまとめれば、「グループ」テーブルで鉄軌道事業者の概念を車両の歴史的な変遷の直感に沿わせるように変形させたこと、および鉄軌道事業者の略称を歴史的に検討して定めた上で、それに依存する形で車両の名前空間という概念を設定したことである。それにより現在投入したデータは整理がついている。ただし、対象範囲が京王、小田急、東急、京急および相鉄と非常に広く、データ投入の時間がかかるため、2021年9月22日に公開はしたがデータの拡充は途上である。

旧バージョン

本サイトで個別に作成している車歴表における名前空間は、徐々に改良しているため作成時期によってバラバラであるが、一応の最新バージョンは次のとおりである。ここでは合併後の旧番号や、鉄道籍と軌道籍の区別を行っている。

目黒蒲田電鉄→東京横浜電鉄(2)→東京急行電鉄

  • 0: 標準・元東京横浜電鉄(1)
  • 1: 元池上電気鉄道
  • 2: 元小田急電鉄(1)小田原線機関車
  • 3: 元小田急電鉄(1)小田原線機関車以外
  • 4: 元小田急電鉄(1)帝都線
  • 5: 元京浜電気鉄道
  • 6: 東京急行電鉄改番後
  • 7: 5000系(1)以降
  • 8: 5000系(2)以降
  • 50: 玉川線旅客電車
  • 51: 玉川線貨物電車
  • 52: 玉川線貨車
  • 53: 元京浜電気鉄道
  • 54: 東京急行電鉄改番後
  • 55: 元京王電気軌道 ボギー旅客車
  • 56: 元京王電気軌道 貨物電車
  • 57: 元京王電気軌道 貨車

東京横浜電鉄(1)

  • 0: 標準
  • 50: 玉川線旅客電車
  • 51: 玉川線貨物電車
  • 52: 玉川線貨車

小田原急行鉄道

  • 0: 機関車
  • 1: 機関車以外
  • 2: 元帝都電鉄

(鬼怒川水力電気)→小田急電鉄(1)

  • 0: 小田原線機関車
  • 1: 小田原線機関車以外
  • 2: 帝都線

帝都電鉄

  • 0: 標準

小田急電鉄(2)

  • 0: 標準
  • 1: 1000系以降

大師電気鉄道→京浜電気鉄道

  • 0: 元湘南電気鉄道
  • 50: 1899年
  • 51: 1900年以降の四輪旅客車
  • 52: ボギー旅客車
  • 53: 貨物電車
  • 54: 貨車
  • 55: 形式称号付与後

湘南電気鉄道

  • 0: 標準

京浜急行電鉄

  • 0: 標準

京王電気軌道

  • 0: 元玉南電気鉄道
  • 50: 旅客車・撒水車
  • 51: 貨物電車
  • 52: 貨車
  • 53: ボギー旅客車

玉南電気鉄道

  • 0: 標準

京王帝都電鉄→京王電鉄

  • 0: 標準
  • 1: 1000系(1)以降
  • 2: 1000系(2)以降